「ミッション;神戸」第1回・小泉寛明さん(神戸R不動産)レポート
【第1回ゲスト】 小泉寛明さん(神戸R不動産)
「海と電車と僕らの家」「KOBEエキゾチカ」「これくらいがちょうどいい」
……個性的なタイトルは、すべて、取り扱う不動産物件に捧げられたもの。
自分好みの住空間を選ぶという新たなスタイルの提案で話題のR不動産。
先月、『全国のR不動産 面白くローカルに住むためのガイド』(学芸出版社)が発売されたばかりです。
神戸では小泉さんが中心となり、「KOBE MAP FOR NOMADS」を独自に作成。
その活動に触れて、実際に東京をはじめ全国から多くのひとが、神戸に移住してしまいました。
カリフォルニア大学で都市計画を学び、森ビルで働いていた小泉さんの広々とした目に、神戸はどう映っているのでしょう。
小泉さん。小泉さんしか知らない神戸の楽しみ方を、こっそり教えてください!
アメリカの方が先に不況になっていた
湯川: 小泉さんは神戸R不動産の代表として活躍されていますが、この「R」というのはどういう意味なのでしょう?
小泉: リユースやリノベーション、リサイクルの「R」です。アメリカでは1970年代から、不動産のリユースやリノベーション、リサイクルという動きが出ていました。50年代、大戦後の好景気が終わると、70年代には日本よりもずっと早く不況に突入していましたから。
日本では2001年、IDEEの黒崎輝男さんが、 R-projectということを提言されたのが始まりですね。当時は森ビルで働いていたのですが、そんな動きも知っておきたいと。その後、アメリカでコンサルタントをしていた時期も通じて、「R-book」製作にかかわってきました。
湯川: アメリカと日本ともふくめて30回ほど引っ越された結果、神戸に落ち着かれるわけですが、神戸がお好きだったのですか?
小泉: その前は大阪に住んでいたのですが、なんとなく神戸も良いねと遊びに来て、ふらっと三宮の不動産に入って。「こんなのもあります」と出された、手書きで、書き込まれている字もよくわからない物件が、宝物だったんです。
それで引っ越すことにしたら、大家さんがとても良いひとで。引っ越しの挨拶にご近所を引き回してくれたり、おすすめのカフェを教えてくれたり。夕方電話が鳴って、バーベキューやるからと誘ってくれたり。そのうち「またか」となってくるのですが(笑)
湯川: (笑)
「ここに来てよかった」を
湯川: 小泉さんは先週、北欧に滞在されていましたが、そこもホテルではなくて、ホストの顔が見える場所でしたよね。
小泉: Airbnbですね。ふつうの家の空き部屋をシェアする仕組みです。ヨーロッパではかなり認知されていて、今回ストックホルムで行われたサービスデザインカンファレンスでも、オフィシャルホテルがAirbnb、つまり「自分で探して泊まってね」ということになっていました。
EINSHOP岡本: (スマートフォンを見せながら)これですね。見えますか。行き先を入れると、近くでAirbnbで部屋を提供しているところがわかるんですよね。
会場: おー
EINSHOP岡本: 宿泊施設じゃないから、お客さんを断ることもできるんですよね。
小泉: はい、ですので個人なので信用がとても大切になります。なので、宿泊者もホストも双方がレビューを書くという仕組みができています。SNSによって可能になった、ひとつの例ですね。
その街を誰がガイドするか
小泉: 旅をしていて、いちばん不安なのは、空港に着いた瞬間だと思うんですよ。そのタイミングで、たとえば迎えに来てくれる、SNSですぐに連絡がついてどう移動するかこまやかに教えてくれる。それだけでも、「ああ、ここに来て良かった」となりますよね。
湯川: そうですね。
小泉: 遠くからきたひとを、どうやって迎えてあげるか。そういう「ホスト精神」は、人間の心の中にあると思うんです。だって、不安な旅人が喜ぶというのは、嬉しいじゃないですか。
そして、旅で訪れたひとは、こうして良い体験が積み重なってくるうちに、そこが定住地になってくるのだと思います。
具体的な例では、この、9月に出た書籍「全国のR不動産」や、「神戸移住のための地図」で編集を担当した、東京R不動産の安田(洋平)さん。何度か、取材で神戸を訪れているうち、結局、今年の春、神戸に移住してきました。
また有名な方では、画家のスズキコージさんが数年前に神戸に移住してこられたんですよね。すると、彼を慕うひとたちが集まってきて、近所のカフェなどに集っているうちに、移住するひとが出てくる。
その街を誰がガイドするかが、重要なのですよね。
今回のミッション
湯川: 私としてはぜひ小泉さんに、神戸をガイドしていただきたいのですが。というわけで、今日ここに集まってくださった方に、ミッションをお渡ししたいなと思っております。この「神戸移住のための地図」のなかで、とくにおすすめの場所など、ございますか?
小泉: そうですね、まずは燈籠茶屋ですね。再度山の方にあって、朝、山を登っていくと、いろんな国籍のひとがビールを飲みながら卵焼きを食べたりおでんをつついたりしている。あまり取材を受けないところなので、紹介しづらいのですが。
あと、この地図に載っていない、最近発見した場所でもいいですか? そこからさらに山の中を1時間ほど行くと、ジャズ喫茶……森の中にジャズが流れる、やっぱりジャズ喫茶と呼ぶしかない、週末しか営業しない店があるんです。その隣にはビストロもあるんですよね、まだ行ったことないのですが。
地図に載っているのでは、ガーデンレストラン風舎もいいですよ。有馬街道、菊水ゴルフ場の、カート道を車で突き抜けると、ポニーがいたり、ハーブ園があったりする、その先にある絶景のレストランです。カート道を、勇気を持って突き抜けてください(笑)
湯川: 山、多いですね。
小泉: 地図も、だいぶ「山より」です(笑) 山の中にいろいろありますね。芦屋でアウトドアショップ「スカイハイマウンテンワークス」を営む北野(拓也)さんの名言をぜひ紹介したいのですが。
「神戸のひとはみんな、『海と山に囲まれたいい街なんですよ』というけれど、実際には眺めているだけで、海と山を使ってはいない」。
本当にそうだと思います。もったいなさ過ぎますよね。
湯川: ぜひ、この地図を手に、山に入ってみたいと思います。
「爆弾を投げ込む」
湯川: 最後に、小泉さんの今後のビジョンをお聞かせいただけますか?
小泉: 神戸は150年前に開港したときには、移住者のまちですよね。でも、震災などもあり、景気が良くないので仕方ないところもあると思うのですが、いま保守的になっていると思うところがあります。たとえば、古くからいるひとたちで仕事をまわしあったり。そこに、外から来た人と一緒に、爆弾を投げ込むということを……。
湯川: 爆弾!(笑) でも、風穴を開ける、風通しを良くするというのは、大切ですよね。
小泉: それもあって、reallocal(リアルローカル)というサイトを立ち上げたところです。ひとに出会ってもらう、この街にはこんなひとがいると知ってもらう。そういうひとに会えるイベントや、シェアハウス、シェアオフィス、また求人などの情報をあげていっています。まだ、発展系ですが。
https://reallocal.jp/
湯川: こうして、元移住者もみんなで旅人を迎える……。今日の対談の締めは、「お・も・て・な・し」、ということで良いのでしょうか?
小泉: うーん。「おもてなし」というと、何か違いますよね。
湯川: いわゆる「おもてなし」と、小泉さんがAirbnbや移住者を迎えるときにつかう「ホスト精神」というのは、どこが違うのでしょう?
小泉: 「おもてなし」というと、一方的なサービスという印象を強く受けます。一方でホスピタリティは、双方向のコミュニケーションではないかなと感じます。訪れる方も、迎える方も、双方がおもてなしの心をもつ。その関係をつくっていくということが、大切なのではないでしょうか。
湯川:これはおもしろいですね! 日本ではつい、サービスを提供する側と受ける側とで断絶しちゃうというか、対話が成立しなくなりますから。
今日は本当に素敵なお話を、ありがとうございました。
<蛇足カナ?>
ガイドブックには載らない「リアル神戸」を、神戸の素敵なひとに伺う。
そんな企画を立ててすぐ、小泉さんの顔が思い浮かびました。
それまで共通の友人である“リノベ”奥村さんの出版記念会で鼎談をしただけの、ご縁でした。
移住者のためのマップをつくられている方なので、神戸の知られざる魅力を紹介していただいて……。
そんなありがちな話をイメージしながら話を進めていたら、小泉さんが見えている地平はもっと広く、遠かったのは、読んでいただいた通りです。
おもてなしとホスピタリティの違いなど、ハッとしました。
「旅人を迎える」ことが人間性を基礎づけると、私の思想と合気道の師の内田樹先生から聞いたことがあります。
善が勝利するとは限らないこの世界で、しかし、ひとは自分のささやかな幕屋を建てることができる。
そこを訪れた旅人に、一宿一飯を差し出すことならできる。
その行為こそが人間性を基礎づけるのだ、と。
異邦人を受け入れるひとが魅力的なのは、そんなところにも理由があるのでしょうか。
というわけで、旅と暮らしのあいだをていねいに、柔らかに、にこやかにつなぐ小泉さん(&奥様)。
あらためて、とっても素敵な方でした。
そんな小泉さんが北野にいるから、たくさんの方が神戸に移住を決めたというのも、わかるような気がします。
あ、でも、にこにこと「爆弾」発言をする方ですからね。
だから、一緒にいて楽しいのですが。
(文・対談再構成/ 湯川カナ)
<当日のアルバム>